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整理番号:No.38
石 油 化 学 工 業 協 会
作成    1988年 3月
改訂   2003年 4月

1.製品の名称  無水フタル酸


2.組成、成分情報

化学名 無水フタル酸
別名 1,3−イソベンゾフランジオン、1,2−ベンゼンジカルボン酸無水物
含有量 99.5%以上
化学式 64(CO)2O(分子量148.12)
官報公示整理番号 化審法・安衛法(3)−1344
CAS No. 85-44-9

3.危険有害性の要約

最重要危険有害性
 有害性 蒸気、粉塵は眼、皮膚、喉に対して激しい刺激性がある。
 環境影響 生分解性良好
 物理的及び化学的危険性 粉末、顆粒状物は、粉塵爆発を起こしやすい。
分類の名称(分類基準は日本方式) 腐食性物質(但し、フレーク状で無水マレイン 酸 0.05重量%以下のものは非該当)

4.応急措置

吸入した場合 被災者を直ちに空気の新鮮な場所に移動させる。
身体を毛布等で覆い保温して安静を保つ。
鼻や喉の刺激は、水を噴霧し、うがいをすれば和らぐ。
呼吸が止まっている場合及び呼吸が弱い場合は、衣類を緩め呼吸気道を確保した上で、人工呼吸を行う。
意識がないが呼吸している場合、又は意識があるが呼吸困難な場合は、酸素吸入が有効である。
医師の指導の下に行うことが望ましい。
医師の指導なしに酸素以外の施薬をしたり、被災者に口からものを与えてはならない。
速やかに医師の手当を受ける。
皮膚に付着した場合 一刻でも早く洗浄を始め、付着した物質を完全に洗い流す必要 がある。
洗浄が遅れたり、不十分だと皮膚障害のおそれがある。
汚染された衣類、靴等を速やかに脱ぎ、患部を石けんと水又は微温湯で最低20-30分間よく洗い流す。
溶融品は、重度の火傷を起こすので、一般火傷の治療に準じた処置を行う。
速やかに医師の手当を受ける。
目に入った場合 一刻も早く洗浄を始め、入った物質を完全に洗い流す必要が ある。
洗眼が不十分だと失明の恐れがある。
適温のゆるやかな流水により、15分以上洗眼する。 
生理食塩水がすぐ入手できれば使用する。
洗眼の際は、瞼を指でよく開いて、眼球、瞼の隅々まで水が 行きわたるように洗浄する。
速やかに医師の手当を受ける。
直ぐには痛みがなく視力に影響がなくとも障害が遅れて現れることがあるので、必ず医師の診断を受ける。
飲み込んだ場合 吐かせようとしてはならない。水でよく口の中を清浄する。
コップ1〜2杯の水を飲ませ、胃の中の物質を希釈する。
(牛乳が直ぐ入手できれば水を飲ませた後に与えてもよい)。
嘔吐が自然に起こったときは、気管への吸入が起きないよう身体を傾斜させる。
嘔吐後、再び水を飲ませる。
保温して速やかに医師の手当を受ける。

5.火災時の措置

消火剤 噴霧水、泡、粉末、炭酸ガス
特定の消火方法 火災発生場所の周辺に関係者以外の立入を禁止する。
初期の消火には、水(霧状水)、粉末、炭酸ガス等を用いる。
大規模火災には、泡(耐アルコ-ル泡)消火剤等を用いて空気を遮断することが有効である。
溶融無水フタル酸に水を注ぐと激しく突沸現象を起こすので、水噴霧 方式を採用する。
棒状水の使用は、火災を拡大し危険な場合がある。
周囲の設備等散水して冷却する。
移動可能な容器は、速やかに安全な場所に移す。
消火を行う者の保護 消火作業は風上から行い、自給式呼吸器等の保護具を着用する。

6.漏出時の措置

人体に対する注意事項 作業の際は、保護具を着用し、皮膚への付着や粉塵を吸入しないよう注意する。
環境に対する注意事項 悲惨したものが下水、河川に流入するのを防ぐ。
除去方法 フレーク状の場合、悲惨したものを極力粉塵がたたないように集め、適切な容器に回収する。
溶融状の場合、盛り土、土嚢などで囲み、大量の水で冷却固化し、適切な容器に回収する。
漏洩がとまらない場合は、安全な方法で他の容器又は貯槽に移す。
二次災害の防止策 付近の着火源となるものを速やかに取り除く。
漏出した場所の周辺には、ロ−プを張るなどして関係者以外の立入りを禁止する。
大量に漏れまたは災害の発生する恐れのある場合は、直ちに関係箇所に連絡し、事故の拡大防止に努める。
タンクローリー運行中に漏れを発見した場合には、安全な場所を選び、速やかに停車し、周囲に旗等の警戒標識を設置し、低弁、サイドバルブ、容器の亀裂等漏れ箇所を確認し、応急措置を行う。

7.取扱い及び保管上の注意

取扱い 1.適切な保護具を着用し、粉塵の吸入、皮膚接触を防ぎ、作業する。
2.作業環境は、許容濃度以下に保つ。
3.室内で取扱う場合は、粉塵・蒸気の発生源を密閉する設備又は局所排気装置を設ける。
4.粉塵濃度の高い所(15g/m3以上)では、着火源により粉塵爆発を起こすので、着火源との接触を避け、静電気帯電防止に努める。
5.取扱場所で使用する電気機器等は、防爆構造のものを使用する。
6.水と反応してフタル酸を生成し、配管等に固化閉塞を起こすことがあり、又発火点は 570 ℃であるが、鉄との反応で低温発火性物質(発火点464 ℃)が生成するので注意が必要である。
7.加熱反応等は、直接火気を使用せず、スチ−ム、熱媒体による間接 加熱方式をとる。
8.取扱後、石けんを用いて手洗い洗顔等を十分に行い、又衣服に付着 した場合は、着替える。
9.容器は、転倒、衝撃を加え又は引きずり等の乱暴な取扱いをしない。
10.流動による静電気の発生を防止するため、容器はア−スをとる。
保管
安全な容器包装材料 容器(紙袋、フレコンバック)は、破袋、破損のないものを使用する。
貯槽形状は通常縦型円筒槽を用い、溶接部の材質はSUS304を用いる。
適切な保管条件 フレ−ク品は、直射日光を避け、強酸化剤から離し、湿気、火源のない、風通しのよい冷暗所に保管する。
フレコンバックで貯蔵する際は、バックの転倒防止を図る。
倉庫等の貯蔵場所では、粉塵が溜まらないように清掃する。
溶融品は、135〜145 ℃の温度範囲で貯蔵し、昇華物等による配管等の閉塞対策を行う。
使用済みの容器は、一定の場所を定めて保管する。

8.暴露防止及び保護措置

設備対策 内での取扱の場合は、発生源の密閉化又は局所排気装置を設置する。
建物は、耐火構造とし、電気設備は、防爆が好ましい。
取扱い場所の近くに、安全シャワ−、手洗い、洗眼設備を設け、その位置を明瞭に表示しておく。
管理濃度 設定されていない
許容濃度 日本産業衛生学会(2002年版)0.33ppm 2mg/m3
気道感作性物質第1群
ACGIH(2001年版) TLV-TWA 1ppm A4
保護具
呼吸器の保護具 防塵マスク、自給式呼吸器、防毒マスク等
手の保護具 ゴム手袋
目の保護具 防塵眼鏡、顔面保護具
皮膚及び身体の保護具 保護衣(帯電防止性)、ゴム前掛け、安全帽、安全靴等

9.物理的及び化学的性質

外観
 物理的状態 昇華性のあるフレ−ク、結晶又は固体
 色 白色
臭い 刺激臭
pH 測定項目に該当しない。
物理的状態が変化する特定の温度/温度範囲
 沸点 284.5 ℃
 融点 131 ℃
引火点 152 ℃ (C.C.)
発火点 570 ℃
爆発特性
 爆発限界 下限 :1.7 vol%  上限 :10.5 vol%
 粉塵爆発 下限値 15g/m3
最小着エネルギー 15mf 
発火点(浮遊状)650℃ 
蒸気圧 :187 Pa(1.4mmHg)(110 ℃),560 Pa(4.2mmHg)(180 ℃)
蒸気密度 3.5 (空気 = 1)
密度(比重) 1.527 (4 ℃)
溶解度
0.6 g/100g  (25 ℃)
アセトン >100 mg/ml (19 ℃)
DMSO >100 mg/ml  (19 ℃)
ピリジン 80 g/100g  (20〜25 ℃)
ベンゼン >5 g/100g  (25 ℃)
エタノ−ル、 エ−テルに微溶。
燃焼熱 779 Kcal/mol ( 25 ℃)
オクタノール/水分配係数 log Pow = 0.62 12)

10.安定性及び反応性

安定性 湿気で徐々にフタル酸に変化する。
反応性 水の存在で鉄と反応して低音発火性のフタル酸鉄塩を生成する。

11.有害性情報

<ヒトへの影響>
刺激性 蒸気及び粉塵は、皮膚、眼、上部気道に対し激しい刺激作用がある。
空気中濃度25mg/m3(4.2ppm)で粘膜に対して若干の刺激を生じ、30mg/m3(5ppm)で明らかに結膜刺激を引き起こし、粘膜に対する刺激も増大する。
この程度の濃度のばく露においては、咳、くしゃみ、咽喉のやきつくような感覚、粘膜、分泌物の増加等がみられる。1)
長時間接触すると皮膚が侵される恐れがある。2)
感作性 皮膚及び呼吸器に対し感作作用があり、過敏症となり極く微量でも アレルギ−性の喘息、じんましん、皮膚湿疹を生ずることがある。 3)
代謝排泄 職業上、無水フタル酸にばく露されている指標として、尿中のフタル酸エステルを定量し、その値でばく露されている度合を検討したところ、高濃度にさらされた労働者は、尿中のフタル酸エステルの濃度を測定することにより、労働者のばく露度を観察するのに役立つ可能性がある。(尿中のフタル酸類は、エステルに変換して定量する)。5)
<動物試験結果>
急性毒性
経口 ラット LD50 4,020mg/kg6)
マウス LD50 1,500mg/kg6)
経皮 ウサギ LD50 >10g/kg6)
腹腔内 マウス LD50 1,670〜2,450mg/kg7)
刺激性
ウサギ 強い(100mg)6)
皮膚 ウサギ 中程度(24時間、閉塞、500mg)6)
感作性 モルモットのBuehler 法、Intracutaneus法、MEST法、吸入感作法で感作性を示す。15)
モルモットのEpicutaneous法で感作性はみられていない。15)
慢性・長期毒性 120日間 20mg/kg/dayウサギへの経口投与では、白血球の数と血液 120日間以上 100mg/kg/dayラットへの経口投与では、かなりの体重減少を示したが、致命的なものではなかった。又気管、気管支、胃の粘膜の刺激以外に肝臓、腎臓、心筋の影響が観察された。
ラットを 45日間 20mg/l の濃度に継続ばく露すると、睾丸中のデハイドロアスコルビン酸濃度の減少がみられた。又 2週間以上100mg/l〜200mg/lの濃度にばく露すると、雌の生殖能力の減少、睾丸中のデアスコルビン酸、アスコルビン酸、核酸の減少がみられた。
ラットを 70日間 540mg/mlの濃度に継続ばく露すると運動神経に影響が出る。
7)
発がん性 マウスおよびラットを用いて2年間 7,500ppm〜33,000ppmの範囲で投与した結果、発がん性はみられなかった。8)
動物実験の結果、ラットおよびマウスについて発がん性は認められなかった。9)
ACGIHでは、A4[発がん性として分類できない物質]に分類している。
IARC、NTPの発がん性物質リストには記載されていない。
10)
変異原性 エームス試験、ほ乳類培養細胞(CHO)を用いる染色体異常試験で、変異原生は認められていない。8)
DNA Damage ラット 肝臓 3 mmol/l 6)
催奇形性・生殖毒性 腹腔内 マウス TDL0 203 mg/kg(8〜10day preg) 8)
マウスに55.5  mg/kg/day(0.375 mmol/kg)を妊娠8〜10日に腹腔内投与した実験で、胎児に肋骨と椎骨に異常がみられている。さらに、妊娠11〜13日の投与では胎児に主に口蓋裂等の異常がみられている。15)

12.環境影響情報

残留性/分解性 生分解性は良好 BODにおける分解 85.2%11)
生体蓄積性 分配係数から推定して、濃縮性は低い。
生体毒性
 魚毒性
ヒメハヤ LC50 96days >56mg/l13)
Salmo gairdneri   LC50 60days 561 mg/l 8)
Brachydanio rerio LC50 7days 44 mg/l 14)
Salmo gairdneri  LOEC 60h 32,000μg/l 7)

13.廃棄上の注意

残余廃棄物 廃棄は焼却によって行い、その方法は次のいずれかによる。
(1)焼却炉で少量ずつ焼却する。その際黒煙などが出ないように注意する。
(2)助燃剤と共に焼却炉の火室へ噴霧し焼却する。
  活性汚泥処理も可能である。
  多量の場合は、免許を所有している専門業者に処理を委託する。
汚染容器・包装 空容器を廃棄するときは、内容物を完全に除去した後に処分する。

14.輸送上の注意

国連分類 8(腐食性物質,PGV)
国連番号 2214
送の特定の安全対策及び条件 車輌等によって運搬する場合は、荷送人は運送人へ運送注意書(イエロ−・カ−ド)を渡す。
フレコンバックおよびペ−パ−バックの輸送は、雨に濡れぬようシ−ト掛けを行い、荷崩れを起こさないように積み込み、破袋、破損しないようにロ−プ等を掛けて荷崩れ防止を行う。
コンテナ−、ロ−リ−、タンク貨車を使用する場合、充填前にバルク容器の点検を行い、荷役時は、静電気対策としてア−スを実施する。
溶融品のタンクロ−リ−等への積込み、荷おろしの前に必ず液温が140 ℃以上であることを確認し、それ以下の場合は、蒸気加熱を行い、液温が140 ℃以上であることを確認した上で作業を行う。
ロ−リ−、運搬船には所定の標識板、消火設備、災害防止用応急資材を備える。
溶融品の船舶への積込みおよび荷揚げ作業については、作業の安全効率化を図るため桟橋上にマリンロ−ディングア−ムを設置して作業を行うことが望ましい。

15.適用法令

労働安全衛生法 法第57条の2、通知対象物質 政令番号第551号
化学物質管理促進法 第一種指定化学物質 政令番号第312号
船舶安全法 危規則  告示別表第3  腐食性物質
(但し、フレーク状で無水マレイン酸含有量0.05%以下のものは非該当)
航空法 施行規則 告示別表第11腐食性物質
(但し、フレーク状で無水マレイン酸含有量0.05%以下のものは非該当
海洋汚染防止法 施行令別表C類物質
労働基準法 施行規則 告示別表第1の2 化学物質に起因する業務上の疾病、労働大臣が指定する化学物質

16.その他の情報

1. Patty's : Industrial Hygiene and Toxicology.4th ed (1994)
2. The Royal Society for Chemistry : Chemical Safty Data Sheet VOL.3. (1990)
3. 化成品工業協会:無水フタル酸取扱い安全指針及びその資料編(1980)
4. U,S IRIS(Integrated Risk Information System CD-ROM.1995.1.)
5. Gary M.Liss : Scand J.Work Enveronmental Health Vol.11.P381-387(1985)
6. RTECS (Aug.1997)
7. Howerd P.Hand P.R. Durkin : Preliminary Environmental Hazard Assesment of Chlorinated Naphthalenes, Silicons, Flourocarbons, Benzenpolycarbox -ylates Chlorophenols P153-198 U,S, EPA PB238074 (Nov.1973)
8. NTP CHEMICAL REPOSITORY (RADIAN CORP.,August 29,)(1991)
9. NCI : Bioassey of Phthalic Anhydride for Possible Carcinogenicity (Jan,1979)
10. (社)日本化学物質安全・情報センタ- : 特別資料 NO.110 発がん性物質の分類とその基準(第3版)(1997年2月)
11. 通産省監修,(財)化学品検査協会編:化審法の既存化学物質安全性点検デ-タ集、(1992.10.)
12. 国立衛生試,厚生省監修:国際化学物質安全カ-ド(ICSC) 日本語版 第1集 878-879 1992.
13. Pickering.Q.H.and Henderson.C.:JWPCF 38(9)(1966)
14. Karel Verschueren:Handbook of Environmental Data on Organic Chemicals.3rd ed p1549-1550 Van Nostrand Reinhold Co (1983)
15. IUCLID(International Uniform Chemical Information Data Base)Data Set,EU(2000)