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                    石 油 化 学 工 業 協 会  
整理番号:No.07          作成   1983年5月18日
改訂   2000年5月31日

1.製品の名称  トルエン


2.組成、成分情報

化学名 トルエン
(別名:トリオール、メチルベンゼン)
含有量 99%以上
化学式 CHCH   (分子量 92.14)
官報公示整理番号 化審法・安衛法 (3)−2
CAS No. 108−88−3


3.危険・有害性の要約

分類の名称 引火性液体、急性毒性物質
有害性 眼、皮膚及び気道に刺激性がある。
中枢神経に抑制作用がある。
高濃度長期吸入暴露では中枢神経系の機能障害、脳の萎縮、腎障害などが生じる。
IARCの発がん性物質区分でグループ3「ヒトに対して発がん性に対して分類できない物質」
に分類されている。
環境影響 生分解性良好
危険性 蒸気は空気より重く、地面あるいは床に沿って移動することがある。遠距離引火の可能性がある。
流動、攪拌などにより静電気が発生することがある。
強酸化剤と激しく反応し、火災および爆発の危険をもたらす。


4.応急措置

吸入した場合 被災者を直ちに空気の新鮮な場所に移動させる。
体を毛布などで覆い、保温して安静に保つ。
呼吸が止まっている場合及び呼吸が弱い場合は、衣類を緩め呼吸気道を確保した上で人工呼吸を行う。
意識はないが呼吸している場合、又は意識はあるが呼吸困難な場合は酸素吸入が有効である。医師の指導の下に行うのが望ましい。医師の指示なしに酸素以外の投薬をしたり、被災者に口からものを与えてはならない。ただちに医師の手当てを受ける。
皮膚に付着した場合 汚染された衣服、靴などは速やかに脱ぎ捨てる。必要であれば衣服等を切断する。
水または微温湯を流しながら洗浄する。
石けんを用いてよく洗い落とす。
外観に変化が見られたり、痛みが続く場合はただちに医師の手当を受ける。
目に入った場合 コンタクトレンズを使用している場合は固着していない限り、取り除いて洗浄する。
最低15分間洗浄した後、直ちに眼科医の手当てを受ける。
洗眼の際、まぶたを指でよく開いて、眼球、まぶたの隅々まで水がよく行き渡るように洗浄する。
飲み込んだ場合 吐かせようとしてはならない。
揮発性の液体なので吐き出させるとかえって危険性が増す。水で良く口の中を洗わせる。口から何も与えてはならない。嘔吐が自然に起こったときは、気管への吸入が起きないように身体を傾斜させる。保温して速やかに医師の手当てを受ける。


5.火災時の措置

消火剤 ドライケミカル、炭酸ガス、泡(耐アルコール泡)、水噴霧
初期の火災には粉末、炭酸ガスを用いる。
大規模火災の際には、泡消火剤を用いて空気を遮断することが有効である
消火方法 火災発生場所周辺に関係者以外の立入を禁止する。
周辺火災の場合、周辺の設備などに散水して冷却する。
移動可能な容器は、速やかに安全な場所に移す。
消火を行う者の保護 消火作業は自給式呼吸等の保護具を着用する。

6.漏出時の措置

人体に対する注意事項 1.漏出した場所の周辺に、ロープを張るなどして関係者以外の立ち入りを禁止する。
2.作業の際は保護具を着用し飛沫が皮膚に付着したり、ガスを吸入しないように
 注意し、風上から作業する。
3.風下の人を退避させる。
環境に対する注意事項 1.付近の着火源となるものを速やかに取り除く。
除去方法 1.危険なくできるときは漏洩部を止める。
2.漏出した場所の周辺から人を退避させると共に火災爆発の危険性を警告する。
3.少量の場合
 乾燥砂、土、おがくず、ウエス等に吸収させ密閉できる容器に回収する。
4.大量の場合
 盛り土で囲って流出を防止し、安全な場所に導いてから回収する。
 この際、下水、側溝等に入り込まないように注意する。 


7.取扱い及び保管上の注意

取扱い
1.吸入を防ぎ、眼、粘膜、皮膚との接触を避ける。必要に応じ適切な保護具を着用し、風上から作業する。
2.作業環境を許容濃度以下に保つ。
3.室内で取り扱う場合は、蒸気の発散源を密閉する設備、又は局所排気装置を設ける。
4.取扱い後は、手洗い、洗顔を十分に行い、また衣服に付着した場合は着替える。
5.漏れ、あふれ、飛散を防ぎ、みだりに蒸気を発散させない。
6.引火しやすいため、火気、火花、アークを発生するものまたは高温点火源付近で使用しない。
7.取り扱い場所で使用する電気機器は防爆構造とし、機器類は静電気対策を講じる。
8.容器は破損、腐食、割れ等のないものを使用する。
9.容器はみだりに転倒させ、衝撃を加え、または引きずる等乱暴な取り扱いをしない。
(容器保管) 10.容器から出し入れするときは、こぼれないようにする。
11.流動によって静電気が発生する場合があるので、出し入れの容器にはアースをとる。
12.使用済み容器は一定の場所を定めて保管する。
保管 1.容器は直射日光を避け、通風の良い、冷暗所に保管する。
2.保管場所は火気厳禁とする。
3.酸化性物質、有機過酸化物と同一の場所で保管しない。


8.暴露防止及び保護措置

管理濃度 50 ppm
許容濃度 日本産業衛生学会勧告値(1999)  50 ppm
ACGIH 勧告値(1999)  TLV-TWA 50 ppm (皮膚吸収あり)
設備対策 蒸気の発散源を密閉する設備又は局所排気装置を設ける。
取り扱い場所の近くに安全シャワー、手洗い、洗眼設備を設け、その位置を明瞭に表示しておく。
保護具 呼吸器系保護具:防毒マスク、送気マスク、空気呼吸器、酸素呼吸器
手の保護具   :保護手袋(ゴム)
目の保護具   :保護眼鏡
その他の保護具:
保護長靴(ゴム)


9.物理的及び化学的性質

外観 無色透明液体 
臭気 芳香を有する
沸点 110.63 ℃
融点 -94.99 ℃
比重 0.8669 ( 20 ℃ )
水への溶解性 溶けない
蒸気圧 2.9 kPa ( 20 ℃ )、5.3 kPa ( 31.8 ℃ )
蒸気密度 3.18 (空気=1)
溶解度 ベンゼン、アルコール、エーテルとは自由に混合
引火点 5 ℃ (タグ密閉式)(日本芳香族工業会・危険物等データベース登録値)
発火点 480 ℃
爆発限界 下限 1.27 vol%、上限 7.0 vol%
オクタノール/水分配係数 log Pow = 2.69


10.安定性及び反応性

強酸化剤、濃硝酸、ハロゲン、溶解硫黄等と激しく反応する。
一部のゴム、合成樹脂を溶解する。


11.有害性情報

 1.ヒトへの健康影響

(1)急性毒性 ヒトでは 100 ppm で一過性の刺激、200 ppm で上気道の刺激、倦怠感、知覚異常、共同運動障害、400 ppm で目の刺激、流涙、興奮、600 ppm で倦怠感、興奮、軽度の吐気、800 ppm で鼻汁、金属臭、眠気、頭痛、倦怠感、吐気、平衡失調が認められる。さらに高濃度では知覚異常、視力障害、めまい、吐気、意識消失、虚脱が認められることがある。  1)
150 ppm のトルエンを1日7時間、3日間暴露した実験で、頭痛、口渇、眠気、目と鼻の粘膜刺激、神経心理学的テストで中枢神経機能の変化(記憶や認識への影響)が報告されている。  1)
目に飛沫が入った場合の影響は一時的な角膜の損傷(洗浄しない場合は刺激から薬傷までの異なった報告がある)と結膜の刺激性で、48時間で完全に回復している。トルエンを皮膚に直接2〜3分間付けるかトルエン飽和水溶液に両手を1時間漬けると 0.1 mg/l (約27 ppm )・8時間暴露に相当するトルエンが吸収されると報告されている。  1)
(2)代謝・排泄・分布 体内で吸収されたトルエンの約 20 % は未変化体として呼気に排泄され、約 80 % は安息香酸に代謝され、馬尿酸、グリシン抱合体として尿中に排泄される。  5)
実験的に行った人における生物学的半減期は6.3時間であった。  5)
(3)慢性毒性・長期毒性 60〜100 ppm 3.3年間暴露されていた労働者の調査で腱反射の異常、月経の異常が暴露者に高率であったことが報告されている。  1)
トルエンに4〜43年間(平均29年間)暴露(調査時11〜42 ppm、9年前は 80 ppm 以上)されていたグラビア印刷労働者に疲労、記憶力障害、集中困難、情緒不安定、その他神経衰弱性の症状が対照群に比べ有意に多くまた神経心理学的テストの結果も有意に悪いことが報告されている。  1)
トルエンを6〜8年間嗜癖していた者に運動失調、共同運動障害、手と足の振せん、大脳のびまん性萎縮が認められた。また他のトルエン嗜癖者の脳の磁気共鳴映像 (MRI) は大脳、小脳、脳幹部のびまん性萎縮、中枢神経全般の灰白質と白質の差異の不鮮明化が報告されている。  1)
接着剤の嗜癖で主としてトルエンを含有した溶剤を週3〜4回吸入していた男性に腎障害が生じた例が報告されている。  1)
繰り返しのまた長期にわたる皮膚への接触は皮膚の脱脂、亀裂、皮膚炎の発生がある。
(4)がん原性 IARC の発がん性物質区分でグループ3「ヒトに対して発がん性について分類できない」に分類されている。


  2.動物への影響

急性毒性  (16) 経口  LD50  ラット    636 mg/kg
腹腔  LD50  ラット   1,332 mg/kg
腹腔  LD50  マウス    59 mg/kg
皮下  LD50  マウス  2,250 mg/kg
吸入  LC50  ラット     49 gm/m3/4H
吸入  LC50  マウス   400 ppm/24H
吸入  TCL0  ラビット   55,000 ppm/40M
静脈  LCL0  ラビット   130 mg/kg
眼刺激性 液体トルエンをウサギの眼に直接入れた場合「刺激性」と分類された。  2)
液体トルエンをウサギの角膜に直接入れた場合非常に強い刺激があり、眼の障害が記載されている。  2)
皮膚刺激性 2〜4週間にわたり10〜20回ウサギの毛を刈った背中及び耳にトルエンを塗布した結果は、中程度の刺激性及びわずかな壊死(皮膚の一部剥落)が観察された。  2)
視覚機能障害 ラットに約 90 ppm のトルエンを1〜2週間吸入させ、視覚機能の影響を調べた結果はトルエンは視神経に著しく蓄積されること、視機能障害は網膜神経節細胞より中枢側の視路で強く起こることが判明した。  1)
慢性毒性 ラットのコントロール、30、100、300 ppm、6時間/日、5日/週、106週の吸入試験の結果は血液学、血液化学、尿分析、組織病理学による検査で毒性作用は認められていない。  3)
がん原性 吸入試験(ラット 30、100、300 ppm マウス 120、600、1,200 ppm 2年間)の結果は腫瘍の発生は見られなかった。  2)
吸入試験(ラット 600、1,200 ppm 103週)の結果は腫瘍の発生は見られなかった。  2)
変異原性 サルモネラ菌(TA98、TA100、TA1535、TA1537、TA1538)に対しては代謝活性の有り無しにかかわらず変異原性を示さなかった。  2)
CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来細胞)を用いた染色体異常試験では代謝活性の有り無しにかかわらず変異原性を示さなかった。  2)
ラットに腹腔内投与で、トルエン 217.5 mg/kg 以上2回投与した結果は骨髄細胞の検査で小核出現率、染色体異常率がベンゼンよりは弱いが上昇した。  1)
生殖毒性・催奇形性 ラット(266、399 ppm)及びマウス(133、399 ppm)での吸入試験で胎児の発育遅延が認められたが、催奇形性は認められなかった。  4)
栄養状態の良い妊娠ラットと不良な妊娠ラットにトルエン 1.2 g/kg 皮下注射し、その出生ラットの奇形、骨格の発達、脳と肝の状態、出生後の行動変化を観察した結果妊娠ラットをトルエンに暴露するとその仔ラットに長期間にわたり成長が抑制されること、また栄養不良は胎児ラットのトルエンに対する感受性を高めた。しかし、催奇形性は認められなかった。  1)


12.環境影響情報

生分解性 「化審法」の既存化学物質の点検結果では、「分解性良好」に分類されている。  7)
濃縮性 Pacific Herring (にしんの一種)による100 ppb 濃度の試験では濃縮倍率は臓器によって異なり、4.4〜340倍であった。  8)
生態影響 金魚      LC50(96 h)          22.8 ppm  9)
グッピー    LC50(14 d)           68   ppm   9)
スズキ     LC50(96 h)           7.3  ppm   9)
ヒメダカ    LC50(24, 48, 72, 96 h)   118  ppm   10)
クロレラ    EC50              694  ppm   10)
ミジンコ    EC50               52 mg/l   10)


13.廃棄上の注意
 
 廃棄は焼却によって行い、その方法は次のいずれかによる。

  1. おがくず、ウエス等に吸着させ、焼却炉で焼却する。
  2. 焼却炉の火室へ噴霧し焼却する。
  3. 空容器を廃棄する場合は内容物を完全に除去した後処分する。
  4. 廃棄を外部に委託する場合は、免許を持った産業廃棄物処理業者に内容物を明確にして処理を委託する。


14.輸送上の注意

  国連分類    : クラス3 (引火性液体) 
  国連番号    : 1294
  国連包装等級 : U

  1. 車両等によって運搬する場合は、荷送人は運送人へ運送注意書、イエローカードを携帯させる。
  2. 容器の破損、漏れがないことを確かめ、衝撃、転倒、落下、破損のないように積込み荷崩れ防止を確実に行う。
  3. タンク車(ローリー)等への充填、積み卸し時は平地に停止させ、車止めをし、接地し、タンク車の許容圧以下の圧縮ガス又はポンプを用いて行う。
  4. ホースの脱着時はホース内の残留物の処理を完全に行う。
  5. ローリー、運搬船には所定の標識板、消火設備、災害防止用応急資材を備える。

15.適用法令

労働安全衛生法 施行令別表6の2・有機溶剤中毒予防規則第1条第1項第4号
 (第2種有機溶剤)
 施行令第18条名称等を表示すべき有害物
 施行令別表1-4、危険物・引火性の物
法第65条の2作業環評価基準
施行令別表第9、通知対象物質(MSDS関連)
消防法 危険物第4類引火性液体、第1石油類非水溶性液体
毒物及び劇物取締法 劇物
船舶安全法 危規則第2、3条危険物告示別表5引火性液体類
航空法 施行規則第194条危険物告示別表第3引火性液体
海洋汚染防止法 環境庁告示・査定物質(C類同等の有害液体物質)
施行令別表第1の3危険物
施行令別表第1有害液体物質(C類)
麻薬及び向精神薬取締法 指定3条麻薬向精神薬原料(特定麻薬向精神薬原料を除く)
悪臭防止法 施行令第1条特定悪臭物質
外国為替及び外国貿易法 輸入貿易管理令第4条第1項第3号
輸出貿易管理令別表第二(輸出の承認)
港則法 施行規則第12条危険物告示引火性液体類
道路法 施行令第19条の13、車両の通行の制限別表2-4
化学物質管理促進法 第一種指定化学物質


16.その他の情報

  文献:

  1. 日本産業衛生学会:許容濃度の勧告値設定理由書 産業医学 36 267 (1994)
  2. Health & Safety Excutive:Toxicity Review 20 Toluene (1989)
  3. CIIT:A Twenty-Four Month inhalation Toxicology Study in Fischer-344
        Rats Exposed to Atomospheric Toluene. (1980)
  4. P.E.Benville Jr.:Calif Fish and Game, 63, 204 (1977)
  5. O.M. Bakke et al.:Toxicol. Appl Pharmacol., 16 691-700 (1970)
  6. M.Ogata et al.:Br. J. Ind. Med. 27 43-50 (1970)
  7. 通産省公報、1980年12月25日
  8. S. Korn et al.:Fish Bull., 75 633-36 (1977)
  9. K. Verschueren:Handbook of Environmental Data on Organic Chemicals.
    2nd Ed. Van Nostrand-Reinhold (1983)
  10. 日本環境協会:化学物質の構造と生体影響等との関係に関する調査研究 (1989)
  11. ICSC CARD (1993)
  12. IARC Monographs,Vol 71 (1999)
  13. 既存化学物質安全性(ハザード)評価シート (1997)
  14. (社)日本化学工業協会 化学物質法規制検索システム (2000)
  15. RTECS(R) Issue : 99-3 (August,1999)